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素直になれなくて
第1章 新入社員
悠里は泣きながら、思い出していた。

高校2年の時、悠里は付き合っている人がいた。同級生の滝島はバスケ部のエースだった。
高校2年の冬、それは突然に滝島を襲った。
急性骨髄性白血病。
所謂血液のガン。長い入院生活。滝島の両親は共働きで、なかなか見舞いに来れなかった。滝島にとっては悠里の見舞いが心の支えだった。
「悠里、いつも悪いな。」
「私はヒロくんに会えて嬉しいから。」
「悠里。」
日に日に痩せて行く彼に、悠里は心が砕けそうだった。
「悠里、ずっと側にいてね。」
それが彼の口癖だった。
ある日、彼の祖父母が住んでいる長野の病院に転院が決まった。
長野に行く日。悠里は見送りに来ていた。
「遠いから、お見舞い、今日が最後だね。」
「バイトして、会いに行く。」
「悠里、大学受験もあるだろ?」
「だって……約束したのに。」
「いいんだよ。」
「嫌だよ……」
「絶対治して、会いに来るから。待ってて。」
「ヒロくん。」
「悠里、キスしていい?」
悠里は真っ赤になってコクリと頷いた。
滝島の、暖かい唇が悠里の唇に重なった。滝島の唇が震えていた。
「じゃ、またね。」

それが、彼との最後になった。
長野に行ってしばらくすると、連絡が来なくなった。
携帯に連絡しても、いつも留守電。
2か月が過ぎた頃、携帯が解約されていた。
そんな時、滝島と仲が良かった友人から言われた。
「アイツ、ダメだったらしいぞ?」
悠里は、心が音を立てて崩れ落ちる気がした。
らしいぞって何?どうやって確かめたらいいの?
悠里は、真実を確かめたくて、バイト代を注ぎ込んで、長野へ行った。しかし、すでに病院を転院していて、最後を辿る事は出来なかった。
確信が掴めないまま。
会いに来ないという事は、やっぱり…亡くなったという事なのか……
悠里が立ち直る迄には、かなりの時間を要した。
それから、悠里に彼氏がいた事はない。

久しぶりに滝島の事で泣いた。いっぱい泣いた。
心が空っぽになるほど……
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