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飼育✻販売のお仕事
第2章 ペット面接・元倒産企業事務員~里子~
一般企業の大多数の採用面接のあり方は、却って雇用主の目を欺く。
外見は人格を映すだの、たるんだ精神がたるんだ見目をつくるだの、後進的な概念が、けだし人間に譎詐を学ばせたからだ。
茅中里子(かやなかさとこ)は難解な問題に対峙していた。
ひっつめ頭に黒縁眼鏡、過剰ではないかと思うまでに糊のはってある黒いスーツに細い肢体を固めた女が、里子の前にかしこまっていた。
「康川のぞみさん。質問、良い?」
「はい」
「ご希望の業務内容にペットと書いてもらっているのは、間違いありませんか」
「はい」
「志望の動機は前の職場が倒産。心機一転して、前職の事務とは全く違う、人とふれあうお仕事をしたいと思われたのね」
「はい。口下手ですが、友達からは明るい……と、よく言われます。頑張ります」
「──……」
遠くに聞こえる回転車の夾雑音が、一風変わったオルゴールのごとく鳥類の鳴き声にかき消えた。
聞き分けのない、天衣無縫な咆哮を上げているのは、この店では稀少な若い仔犬だ。
地下一階から地下二階、VIP会員限定で開放している売り場は静かだ。ある時間帯を除いては、誰一人鳴き声など上げない。
「…………」
どれだけの時間が経ったろう。履歴書に目を通している姿勢を決め込み、里子が時間を稼いでいた束の間は、実際のところ一分にも満たなかったかも知れない。