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飼育✻販売のお仕事
第14章 夏季休暇
「いらっしゃいま──…まぁっ、小葉ちゃん!久し振りぃ」
里子達を迎えた店員の一人が、愛想良い笑顔を志穂に移した。
目尻の皺が、店員のキャリアを物語っていた。
子供部屋を気取ったようなこぢんまりした空間で、猫達がソファやフロアでのんびりとした時間を過ごしている。
志穂と再会を喜び合った店員は、里子達を席に勧めた。
半個室のテーブル席に、小さな従業員が先についていた。
「お決まりになりましたらお呼び下さい。ふふ、別嬪さんなお友達ねぇ」
「恐れ入ります」
里子は志穂とメニューを決めると、注文したものが届くまで、手持ち無沙汰に猫を構った。
「店員さん、雰囲気良いのね」
「どんなだと思ってた?」
「偽善面」
「ま、ガキが怖がるからって私を退職に追い込んだ元副店長はそうだな」
「あの方は?」
「パートさん」
「お待たせしました。ごゆっくり、お寛ぎ下さいね。その猫ちゃん可愛いでしょ。タマちゃんというのよ」
「……ありきたりじゃないっすか。名付け親どいつ?」
「小葉さんは口出ししないの。茅中さんを接客中の子なんだから」
「じゃ、こっちのやつは?」
「そのベージュの子はみゃこちゃんよ」
「こいつが?!大きくなったな」
「十七年も前だもの。貴女も大きくなったじゃない。あれからどうしていたの?」
志穂が店員に話したのは、里子も知る十六年のあらましだった。
ただし、彼女がこの店を去ってからおよそ二年は初耳だ。
「そうなの、じゃあ、茅中さんとは前職で知り合ったのねぇ」
「そ。家政婦のくせに里子は家事全然出来なくてよ、教育係の私は参った参った」
「代わりに、草むしりは志穂の分まで引き受けたわ」
「お前早かったよな。っつか、あいつらどうしてんだろ。毒舌の嬢ちゃん、今頃二十歳は過ぎてるよな。親父みてぇになってなけりゃ良いけど」
「──……」
里子は歓談の輪を離れ、灰色の毛並みを遊びながら、テーブルの上に視線を落とす。
猫カフェのメニューは徹底している。3Dラテアートまでネコだ。カップから両手を出した白猫は、ミルクフォームで出来ているとは思い難い。