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飼育✻販売のお仕事
第14章 夏季休暇
その昔、里子は国内でも有数の富豪の屋敷に勤めていた。
近隣住民は皆、あすこの一家を別世界の人間とでも認識していたようだった。
愛らしい令嬢は罪深いまで無邪気だった。あの無邪気さに感化されてか、里子も道徳を冒してしまった。
「……里子」
「──……」
世界を形成している一部に過ぎなかったものが、ある時突然、酷く美しくたぐいなくなる。
指と指の隙間をこぼれて落ちていったものの代わりだ。気休めだと分かっていながら、愛さずにはおけない。まことに愛した人の愛したものを、愛したい。同じ精神でありたいために。
里子にとって、それが小動物達だった。
動物愛護。それもまた、正義に陶酔したがる人間達の身勝手だ。
身勝手を真摯に貫いていた女は、確かに救いをもたらしていた。里子は彼女の意思を継ぐところに代え難いものを見出していた。
「里子。おい」
「っ…………」
店員は仕事に戻っていた。里子の正面で、友人が憂慮を瞳に現していた。
「すまなかったな。こんな話」
「ううん。引きずってるわけじゃ……」
梅雨は明けた。夏季休暇シーズンに入れば、人間売り場が忙しくなる。
ミルクフォームの猫がとけ出す前に、その対策を練らねばならない。
オフ返上で里子と志穂が顔を合わせたそもそもの目的だ。