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初花凛々
第44章 月前の星
「海っ!海が見えるよ、麻耶!」


同じ景色を同じ窓から眺めているのに、凛は感動を麻耶と共有したくて堪らない。


そう、窓からは、海が見える。


ここは函館。


休みを合わせ、2人は開通されたばかりの新幹線に乗り込み、北海道の入り口にある観光地へと足を延ばした。


美味しいものが食べたい、素敵な夜景が見たい、美しい建造物が見たい______ そして遠出と言うからには、遠い場所が良いということから此処に決まった。


旅館の部屋は、山側と海側が選べるらしい。連休ということで、人気らしい海側の部屋は予約に間に合わなかった。けれど実際旅館を訪れると、どうやら空きが出たらしい海側の部屋へと通された。


窓にベッタリと張り付いて、感動の声を漏らす凛に、麻耶は触れたくて堪らない。


部屋へ着くまでも、そうだった。


移動の新幹線の中ではずっと手を繋いでいたし、人目がない所では惜しむように口付けをした。


その度に凛は照れくさそうに笑い、もっとして、と言う。


「ねぇ麻耶、夕飯前に、お風呂に____ 」


振り返り、言いかけた凛の唇を塞ぐ。


例の如く、パンパンに膨らんだ凛の旅行バッグも荷解きをしないまま、麻耶は凛に口付けをし、抱きしめた。


指の間を通る滑らかな髪を撫で、指にからめながら。


「……凛」


僅かに唇を離し、凛の名を呼ぶ。その声だけで、凛は次に何が行われるのかを理解するほど、2人は互いをわかっている。


まだ、赤い花が所々に咲いているはずだ。凛の着ているシャツワンピースの1番上のボタンをはずすと、鎖骨のすぐ下にも。


麻耶が印を刻むお陰で、凛はこのところ首元が開く洋服を着なくなった。麻耶はそれで良しとした。


首元がザックリと開いている服は、少し屈んだだけで胸元が見える。


業務中、凛が床に落ちた書類を拾おうとした時、偶然にもそれは見えた。大切な部分を覆い隠す、薄くて上品なレースのそれと、2つの双丘が。


そしてその様子を間近で見ていた社員の視線に気付いた麻耶は、あえてそこに、印を刻む。



「俺本当にヤバイかも」


思わず、口付けの合間にそう呟いてしまった。


「何がヤバイの?」


鎖骨に更に濃く赤い花を無理やり咲かせられた凛は、子どものように無垢で、そして大人の色気を存分に纏った瞳で麻耶を見た。
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