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サイドストーリー5
第27章 好きと言って
昨日もやっと眠れたと思ったら梨乃が夢に出てきた。
寂しそうな顔をして、くるりと背を向けて立ち去ろうとしたから
「待ってくれ!」とガバッと起き上がった。
声も出ていたらしい。
声帯に残った名残が気が付かないほどの小ささで震えていた。

寝ても覚めても梨乃が頭から離れない。

寝ている時でさえ、俺を解放してくれない。

「謝っちまえよ」

笑いながら言うじいちゃんの声が頭によみがえる。

「だなぁ」

折れるとか、折れないとかじゃない。
梨乃に会わなきゃ俺の昼も夜もダメになる。

そう決めたらすっきりして梨乃に電話を入れる。
仕事中だろうその電話は留守番電話に切り替わった。

「もしもし。俺。・・・ごめん。
ちゃんと顔を見て謝りたいから、もし許してくれるなら今日の帰り店に寄って。
迎えに行ってやりたいけど店を閉める時間が遅いから・・・ごめんな」

あ~さっさとこうすれば良かった。

すれ違った理由よりも、梨乃がそばにいないほうが何倍もつらい。

すっきりした。

早く梅雨も明けちまえ。
「ビール売るぞっ」
俺は左手に力を込めてビールケースを持ち上げた。

今日はよく眠れそうだ。


恋ひ死ねとするわざならし むばたまの夜はすがらに夢に見えつつ

――焦がれ死ねというのか、きみが一晩中夢に出てくる――
(古今集526)


END****


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