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サイドストーリー5
第9章 10年目の恋
あまりに疲れている時は、志保の家には行かないようにしている。
ただ、疲れた身体を心配させに行くようなもんだから。

でも、会社のエントランスを出て、桜が咲き始めた春の空気を感じて
ふと、志保に会いたくなった。

ゆっくりと歩きながら、上を見る。
満月とは言えないいびつな月が、七分咲きの桜を照らしている。

風に舞い散った花びらを右手でキャッチして、その手のひらを覗けば
小さなピンクの花びらが1枚そこにあった。

志保が・・・
あのお姉さんだと感じたのはいつだったか。

そうだ。去年の花見の時に2人で撮った写真を見ながら
「徹って、カメラを直視するの苦手だよね!
いつも目線を外してる。ほら。高校の学生証もそうじゃなかった?」
と、笑いだした時だ。

確かにそうだけど。
志保、なんでお前が高校時代の俺の学生証を知ってるんだよ。

セロリチャーハンの事も。
ここ数年、志保の部屋に行くとなんとなく懐かしい感じがするのも。

ああ・・・・
と、納得してしまえば全てのつじつまが合った。

志保は俺より先に気がついたんだろう。
UKから帰ってきてプロポーズをしたときに
俺のことを「ポチ」と呼んだ。

それでもお互いに、このことは相手に確かめない。
無言で、志保は俺の10年前を大切にしてくれて
俺は、志保と出会った10年前の記憶を大事にしてる。

それでいいんだと思う。

「ほんとに、結構咲いてるな」

知らないうちに満開一歩手前の桜を
志保と一緒に見たくて。
俺は、夜中だって言うのに志保に電話をする。

「あ、志保?まだ起きてた?
今からそっちに行くけど、ちょっと出てこいよ。
桜が大分咲いてる。一緒に見ようぜ」

2人が再び出会った8年前の桜の話でも一緒にしよう―――


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