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瞳で抱きしめて
第2章 抱きしめたい
大好きな女性から触れられた上に屈託のない笑顔を向けられて、胸が熱くならない男子なんているだろうか。


身体の芯まで熱を帯びていく感覚が走り、思わず光は立ち上がって樹理に背を向けた。


「光?」


不思議そうに立ち上がって光の後ろで首をかしげる樹理から、光はあわてて数歩前進して距離を取った。

今正面から見られるとまずかった。

微かに立ち上がり強張るそれは、どうすれば治まるのか分からなかった。


「どうしたの?」


「あ…じゅ、樹理さんっ…!」



後ろから近づいてくる樹理の手を思わず握った。

握られた手をそのままにして樹理は光の隣に並ぼうとする。


「…!まっ…まってっ!!」


強く手を握ったまま、再び樹理に背を向けた。



「ちょっと…このままでいて……」


「うん」



樹理は理由を分かっているのか分かっていないのか、追及せずに光の言うままにした。


光の指は細くしなやかだ。

長い指は樹理の手を包み込むように握りしめている。



「光の手って、キレイだね」



どこか能天気そうに、樹理は言った。


光相手にだと、感じたことをあれこれ考えずに素直に言葉にできるから不思議だった。


今まで他人に自分の家庭のことや過去を話すことは必要なとき以外は避けてきたし、こんな風にリラックスして側にいられる人間は妹くらいのものだった。



「……樹理さん」


「ん?」


「……なんでもないです」


「うん」




抱きしめたい。


手だけじゃなくて、全身を。




光は爆発しそうになる自制心を必死で自分に繋ぎ止めていた。

どうしてしまったのだろう。

自分の心に宿った熱い感情を、光は完全にもて余していた。


身体が落ちつきを取り戻してようやく樹理の手を解放できた時には、どれくらい時間が経過しているのか全く分からなかった。
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