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愛し愛され
第4章 ペチカ燃えろよお話しましょ

フェラチオをするような姿勢をとりながら、その勃起しないペニスをまじまじと見つめ、指先で弄(もてあそ)んだ。
「かわいい」
知らずに口に出た、心からの言葉だった。かわいい、という言葉が濫用(らんよう)されている、と常日頃思っていた。語彙の少ない若い女性たちは、何もかもを、かわいいの一言で済ましている気がしていた。だからさほ子は、その言葉には特別な注意を払っていたはずだった。しかし、思わずに出てしまったその言葉は、腹から出た、自然な気持ちだった。可愛らしいな、と、彼女は思ったのだった。
傷ついている彼に、塩を塗ることにならなければいいな、と言ってからさほ子は思った。
乾いた笑いを博人は漏らした。
「救われるよ。そう言ってもらえると」
強がりでもなく、卑下するでもなく。ただ素直にそう言えた博人に、さほ子はいつかと同じような好感をいだいた。いい男だな、と、彼女は思う。年の割りに、素直な男性だ、と。
「そう?」
「うん」
「だって本当に、可愛らしいんだもの」
さほ子は、自分がどうしてこんなに甘えた声を出しているのか、と思った。
あのね、と博人が言う。
「?」と彼女は小首を傾げて、続きを促す。
「恥かきついでに告白するけどさ」
「うん」
「何度もオナニーしたんだよ」
「オナ二ー?」
「うん」と博人はうなずいた。いまひとつ合点の行かないさほ子が尋ねる。
「あたしで?」
ふんわりと、自分の唇に笑みが漏れるのを、彼女は抑えることができない。
「真夜中のベッドで、
きみの名前を呼びながら、
何度も小さく果てたよ」
「いまさら、愛の告白?」
今度は博人が笑った。
「勃起しないおちんちんをいじられながら、女のひとを口説けるほど器用じゃないよ」
彼女も笑った。
「けど、たぶんね」
「うん」
「勃起しないのは、そのせいなのかも」
彼女はペニスから視線を上げて、窓の外を見る彼の目を見た。
瞳の中に、ちいさな光が灯っていた。
「妄想と、リアルが、上手くつながらないんだ…」
「――――そう」
と、しか、彼女には言いようがなかった。

