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愛し愛され
第5章 彼女、となったひと



ホテルを出て、彼女を自宅近くまで送っていき、彼らは別れた。

酒を飲む気にすら、ならなかった。

季節は秋。

高くなった空に、銀色の月が浮かんでいた。

携帯で、タイドグラフ(潮時表)を確認した。今夜は小潮。真夜中過ぎに潮位は最も下がり、そこから朝にかけて大きく潮が動く。

クルマで海を見に行った。

何も考えることができぬまま、秋の宵闇にまぎれ、風に吹かれた。夜の海は、波音が遠く、穏やかに揺れていた。蕭々(しょうしょう)とした月の光は、乾いたこころを癒した。水平線を、ベイスの駐留軍の軍艦が航行してゆくのが見えた。そびえる艦橋。厳(いかめ)しい主砲のシルエット。そんな艦影はしかし、秋の夜によく似合う風情をもって博人には写った。艦の輪郭を月光がなぞるように輝く様もまた、不思議と美しく思えた。



そして、博人は、不思議と気持ちが晴れていくのを感じた。

―――もう、気張らなくていいのだ、と思った。

彼女はもう、手に入らない。だからもう、シフトダウンしていいのだ。アクセルをゆるめて、スピードを落としていいのだ、と。

そう思ったら、本当に気が楽になり、わだかまっていた思いが晴れていく気がした。長い夢から醒(さ)めたようなこころ持ちだった。


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