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愛し愛され
第8章 愛し愛され
博人との物語が終わってから、憑き物がおちたように、さほ子は婚外に恋人をもつことをやめた。それは意識してなされたことでなく、ただ、必要がなくなったのだった。性的な冒険に興味が尽きたということでもあるし、男性と恋のさや当てをすることに興味を持てなくなったということもできる。
いずれにせよ、博人は彼女にとってちいさなきっかけだった。
あの時、階段室で互いの人生が遠くまで見渡せた瞬間が、おそらく彼との本当の意味でのクライマックスだったのだろう。
そこで、やってきたブランコに飛び乗れなかったのは、ふたりの呼吸が合わなかったからだ。
そして時は過ぎ、すべては乾いた思い出になった。あんなにも、胸を焦がした出来事は、静かな回想の一場面となった。
まるで、クラムチャウダーのカップをかき回すと、現れては消える、ベーコンやあさり達のように。
それは、陳腐化した、ということではない。
ベーコンもあさりも、クラムチャウダーには欠かせない材料であるのと同じように、いまのさほ子を形作るのに無駄なことなど、何一つないのだ。
あの頃よりも、より魅力的な自分になれただろうか、とさほ子は思う。
博人は、自分をひとつ、成長させてくれたあの優しい彼もまた、倖せになってくれていればいいのだが、とさほ子は思う。