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口琴
第2章 少年
足早に梅雨が去り、青葉が漲る初夏。
小学生の下校時間。
子ども達の賑やかな群れが、通学路を埋め尽くす。
街路樹の蝉達の声も掻き消されていく。
明日からは、子ども達にとって、待ちに待った夏休み。
心も体も開放的になり、水を得た魚のようだ。
宿題の話題、遊ぶ約束、家族旅行の話題。
中には、通知表に肩を落とし、足取りの重い子も。
しかし子ども達は皆、夏の太陽のようにキラキラとして躍動し、至極普通の下校風景がそこに広がる。
その群衆が通り過ぎた後、誰とも群れることなく、項垂れて、足枷を着けているかのように歩く少女が一人…。
その表情は、青ざめ、見るからに元気はない。
通知表が原因ではない。寧ろ成績は優秀だ。
少女は、自宅とは逆方向へと向かっていた。別に宛があるわけではなく、ただ足の向くまま。
白いパフスリーブの半袖ブラウスに、グレーの吊りスカート。丸襟の襟元には、赤いリボンタイの清楚な制服に、赤いランドセル。
腰まで伸ばした長い黒髪は、初夏の風を抱いて靡く。
…怖い…誰か…助けて…
小さな赤い唇をキュッと固く結び、翡翠色の大きな瞳は、涙で潤む。
どれくらい歩いただろう…。
気が付くと、町の中心を流れる川沿いの土手を歩いていた。
「ここ、小さい時に来たことがあるわ…」
自宅とは逆方向へ向かったと思ったが、遠回りをして歩いただけで、結局、自宅とはそう遠くない場所へと辿り着いていた。
川風が心地よく、土手の柔らかいの草の上に腰を下ろし、川を見つめて時を過ごした。
すると、どこらからか美しいメロディーが少女の耳を掠めた。
ワルツ…。
小気味良いその三拍子は、風に乗り、少女の遠い記憶を呼び覚ます。
聞き覚えのあるメロディー。
美しく、物悲しい旋律…。
少女がもっと幼かった頃、母がよく歌ってくれたあの曲だ…。
音色にいざなわれ向かった先に、中学生くらいの少年が一人、楡の木の下に座り、ハーモニカを奏でていた。
小学生の下校時間。
子ども達の賑やかな群れが、通学路を埋め尽くす。
街路樹の蝉達の声も掻き消されていく。
明日からは、子ども達にとって、待ちに待った夏休み。
心も体も開放的になり、水を得た魚のようだ。
宿題の話題、遊ぶ約束、家族旅行の話題。
中には、通知表に肩を落とし、足取りの重い子も。
しかし子ども達は皆、夏の太陽のようにキラキラとして躍動し、至極普通の下校風景がそこに広がる。
その群衆が通り過ぎた後、誰とも群れることなく、項垂れて、足枷を着けているかのように歩く少女が一人…。
その表情は、青ざめ、見るからに元気はない。
通知表が原因ではない。寧ろ成績は優秀だ。
少女は、自宅とは逆方向へと向かっていた。別に宛があるわけではなく、ただ足の向くまま。
白いパフスリーブの半袖ブラウスに、グレーの吊りスカート。丸襟の襟元には、赤いリボンタイの清楚な制服に、赤いランドセル。
腰まで伸ばした長い黒髪は、初夏の風を抱いて靡く。
…怖い…誰か…助けて…
小さな赤い唇をキュッと固く結び、翡翠色の大きな瞳は、涙で潤む。
どれくらい歩いただろう…。
気が付くと、町の中心を流れる川沿いの土手を歩いていた。
「ここ、小さい時に来たことがあるわ…」
自宅とは逆方向へ向かったと思ったが、遠回りをして歩いただけで、結局、自宅とはそう遠くない場所へと辿り着いていた。
川風が心地よく、土手の柔らかいの草の上に腰を下ろし、川を見つめて時を過ごした。
すると、どこらからか美しいメロディーが少女の耳を掠めた。
ワルツ…。
小気味良いその三拍子は、風に乗り、少女の遠い記憶を呼び覚ます。
聞き覚えのあるメロディー。
美しく、物悲しい旋律…。
少女がもっと幼かった頃、母がよく歌ってくれたあの曲だ…。
音色にいざなわれ向かった先に、中学生くらいの少年が一人、楡の木の下に座り、ハーモニカを奏でていた。