この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
口琴
第17章 口琴
二人は自転車を降り、川に向かって歩いた。
青々とした草の上に腰を下ろし、黙って川の音を聴く。
「こんなに、綺麗な音だったっけ?…」
「ほんと、素敵な音…」
「…俺のハーモニカと、どっちが"ステキ"?…」
「ん~、川の音かな?ウフフッ…」
「チッ…なんだよ。じゃぁ、もう吹いてやんねぇ」
「え~!うそ!冗談、ね?ハーモニカ吹いて?ね?」
「ん~、どうしょうかなぁ。じゃぁ、『お願いします聖様』って言ったら吹いてやるよ」
「何それ。バッカじゃない?」
「ハハハ!分かったよ。吹いてやるから、歌えよ?」
「うん!」
「その前に、これ…」
「なぁに?」
聖は、ライラックの花の枝を蕾の目の前に差し出す。
「わ、私に?もしかして愛の告白?嬉し…」
頬を染めて両手を出す蕾を透かすように、聖は、花をパッと頭の上に持ち上げ、蕾には渡さなかった。
「えー!いじわる!」
「これは、お前んじゃねぇの」
「え?じゃあ、誰に?」
小首を傾げる蕾を残して、聖は立ち上がり、水際へと歩いた。
蕾も後を追う。
聖は、そっと、ライラックの花を川の波間に預けた。
そして祈るように目を閉じる。
二分…三分…
それから、ゆっくりと目を開ける。
「なぁに?何をしたの?」
「…いつか…お前、この川は、ドナウ川に続いてるって言ってたよな?パパのところに続いてるって…」
「…うん…覚えてる…」
「だから、俺…花を流した。お前のパパに届くように」
「…パパに?」
「ああ…」
「パパに…祈っていたの?」
「まあな」
「…パパに…届くかな…」
「届くさ」
「うん!」
「ハーモニカ吹くぞ!」
「うん!」
優しい音色。
懐かしい旋律。
蕾の透き通る声。
二人の奏でる美しい音楽は、風に乗り、川面を流れ行く。
遠い異国へも届くかのように…。二人の幸せを乗せて…。
「聖君…」
「ん?」
「パパに…何を祈ったの?」
「秘密」
「もう!教えてよっ!」
「アハハッ!」
「ケチ!教えてくれてもっ…!」
唇を尖らせ、ふくれっ面の蕾の言葉を遮ったのは、聖の唇。
………………
蕾は一瞬驚いたが、静かに翡翠を閉じた。
聖は思った。
いつか、もっと大人になったら話してやるよ。
『蕾を…俺の嫁さんにください』って祈ったことを…。
…FIN …
青々とした草の上に腰を下ろし、黙って川の音を聴く。
「こんなに、綺麗な音だったっけ?…」
「ほんと、素敵な音…」
「…俺のハーモニカと、どっちが"ステキ"?…」
「ん~、川の音かな?ウフフッ…」
「チッ…なんだよ。じゃぁ、もう吹いてやんねぇ」
「え~!うそ!冗談、ね?ハーモニカ吹いて?ね?」
「ん~、どうしょうかなぁ。じゃぁ、『お願いします聖様』って言ったら吹いてやるよ」
「何それ。バッカじゃない?」
「ハハハ!分かったよ。吹いてやるから、歌えよ?」
「うん!」
「その前に、これ…」
「なぁに?」
聖は、ライラックの花の枝を蕾の目の前に差し出す。
「わ、私に?もしかして愛の告白?嬉し…」
頬を染めて両手を出す蕾を透かすように、聖は、花をパッと頭の上に持ち上げ、蕾には渡さなかった。
「えー!いじわる!」
「これは、お前んじゃねぇの」
「え?じゃあ、誰に?」
小首を傾げる蕾を残して、聖は立ち上がり、水際へと歩いた。
蕾も後を追う。
聖は、そっと、ライラックの花を川の波間に預けた。
そして祈るように目を閉じる。
二分…三分…
それから、ゆっくりと目を開ける。
「なぁに?何をしたの?」
「…いつか…お前、この川は、ドナウ川に続いてるって言ってたよな?パパのところに続いてるって…」
「…うん…覚えてる…」
「だから、俺…花を流した。お前のパパに届くように」
「…パパに?」
「ああ…」
「パパに…祈っていたの?」
「まあな」
「…パパに…届くかな…」
「届くさ」
「うん!」
「ハーモニカ吹くぞ!」
「うん!」
優しい音色。
懐かしい旋律。
蕾の透き通る声。
二人の奏でる美しい音楽は、風に乗り、川面を流れ行く。
遠い異国へも届くかのように…。二人の幸せを乗せて…。
「聖君…」
「ん?」
「パパに…何を祈ったの?」
「秘密」
「もう!教えてよっ!」
「アハハッ!」
「ケチ!教えてくれてもっ…!」
唇を尖らせ、ふくれっ面の蕾の言葉を遮ったのは、聖の唇。
………………
蕾は一瞬驚いたが、静かに翡翠を閉じた。
聖は思った。
いつか、もっと大人になったら話してやるよ。
『蕾を…俺の嫁さんにください』って祈ったことを…。
…FIN …