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口琴
第10章 二人きりの夜
蕾は、夢の中でもがいていた。

聖が遠くへ行ってしまいそうで、必死で手を伸ばした。

すると、少し冷たい手が蕾の手を取り、指に指が絡む。

その手は大きくて、力強くて、そして優しかった。

…聖君…そばに…いてくれた…。

蕾は安堵した。

瞼が…重い…。

蕾は、聖と手を繋いだ安心感から、まるで麻酔にでもかかったかのように、そのまま、また深い眠りに堕ちそうになった。

その時…。

頬の辺りに僅かな体温と、呼吸を感じた。

すると、温かくて柔らかいものが…ほんの一瞬…優しく唇に触れた。

蕾は驚いて、思わず目を開けた。

聖の顔が、数センチそこにあった。暗がりの中にキラリと光る真剣な瞳が、こちらを見つめている。

聖の唇が微かに動き、低く掠れた声で囁く。

「…蕾…好きなんだ…」

蕾は全身が熱く泡立ち、胸の奥と鼻の奥がツンとなった。

「私も、大好き…」

か細く、震える涙声で応えた。

言葉が終わるが早いか、蕾の唇に再び聖の唇が重なる。

数秒…。

それはとてもぎこちなく、それはとても優しい口づけだった。

蕾は穏やかに瞳を閉じ、繋いだ手をギュッと握った。

聖は空いている手で、そっと小さな膨らみに触れる。

…柔らかい。

蕾の躰が、感電したかのように、ピクンッと跳ねた。

聖はハッと我に返り、慌てて蕾から離れると、自分の暴走する欲望と、ぶっ壊れた自制心に呆れた。

「ご、ごめん…。俺…その…そうだ、着替えだ…何やってんだ?俺は…」

蕾は、ゆっくりと起き上がると、聖の首に腕を回して抱きついた。

「聖君…。ありがとう…」

聖は少し動揺したが、そっと蕾の背中に両腕を回した。

儚げで、強く抱き締めると、壊れてしまいそうな蕾の躰を、大切に…優しく…優しく抱き締めた。

そしてまた二人は見つめ合い、唇を重ねた。

今度は、大人がするように、角度を変え、何度も何度も…。

暗闇に月光が射し、幼い二人の、蒼く淡い口づけを優しく包んだ。
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