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イカせ屋稼業
第11章 そのじゅう
移籍というのは、
基本俳優本人の希望により現事務所と交渉をし、
OKが出て初めて移籍先の事務所との契約が成立する。


かのうゆえとは話などしておらず、
またnineに移籍なんて寝耳に水だ。


(恐喝したわね、
きっと……)

百合絵は普段見せない真剣な表情だ。


TEL相手が「はい」と出た。
「あたしよ」


「百合絵か。
どうした?久しぶりだな」
相手男性は愉快そうに言う。

『兄さん、
お願いできるかしら?
アダルト俳優事務所、nineの内偵を頼みたいのよ』



TELの向こうにいるのは、
百合絵の実兄・理【サトル】だ。



「nine?
―――最近悪評高いぞ、あそこは。何かされたのか?」


『うちの大型新人が買収されたわ。
千万単位を見越した、
期待の新人だったの。
誰が何をしているのか?内偵してほしい』


「お前が頼み事をするなんて珍しいな……」


『あの事務所は胡散臭い。胡散臭いのが当たり前の業界だけどね。
大概は網目状に繋がりがあるの。
nineだけは、孤高よ。
その時点で異質すぎる』



「わかったよ(苦笑)
お前の頼みだ、
うちの優秀社員を送り込んでやろう」



『ありがとう。
お願いね。
――昂【タカシ】さんにもよろしく伝えてね』


「ああ、伝えておくよ。
任しておけ」


TELを切る。


榊百合絵の実兄・榊理【サカキサトル】は探偵事務所の代表だ。


ちなみに百合絵はビアンだが兄はゲイである。
昂【タカシ】は兄の事実婚相手で、
探偵事務所の経理担当者だ。




メールを送信したあと、
百合絵は『嫌な予感がするわ…』
と呟いた。
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