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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第4章 第二話【花影】-其の壱-

甚平店から「花がすみ」はさほど遠くはない。店へと帰りを急ぐお彩の頬を卯月の風が優しく撫でて通り過ぎていった。随明寺の桜はそろそろ見頃だという。江戸市中の花の名所にも数えられているほどゆえ、さぞ見事なものだろう、今年も早く見物にゆきたいものだと、お彩はのんびりと考えていた。
どこかで犬が狂ったように吠え立てている。こんな長閑な桜日和にはおよそ似つかわしくない、不安をかき立てるような鳴き声に、お彩はふと妙な胸騒ぎを憶えた。背後を振り返ってみても、細い道には人気もなく、風に流されたのか、数枚の花びらが舞っているだけだった。
どこかで犬が狂ったように吠え立てている。こんな長閑な桜日和にはおよそ似つかわしくない、不安をかき立てるような鳴き声に、お彩はふと妙な胸騒ぎを憶えた。背後を振り返ってみても、細い道には人気もなく、風に流されたのか、数枚の花びらが舞っているだけだった。

