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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第6章 其の参

お彩の母お絹もよくこの橋のたもとには夜泣き蕎麦の店を出していた。橋を渡り切った突き当たりのお屋敷は若年寄の松平越中守さまのお住まいだとかで、母はその門前にもしばしば店を出したという。寒い冬の夜には松平さまのお屋敷に仕えるご家来衆や中間、門番までもがお絹の蕎麦をよく食べにきたのだとか。母はよくそんな話をしてくれたものだった。
お彩は橋のたもとにしゃがみ込んで、じっと水面を見つめた。丁度頭上には今を盛りと咲き誇る桜の花が天蓋のように暮れなずむ空を覆っていた。
たった一本だけ、ひっそりと忘れ去られたように水辺に佇む桜の姿に、凛とした潔さを感じずにはおれない。桜の傍には古い楓の樹がこれもまた静かに植わっている。
この桜を見る度に、お彩は母の言葉を思い出すのだった。
お彩は橋のたもとにしゃがみ込んで、じっと水面を見つめた。丁度頭上には今を盛りと咲き誇る桜の花が天蓋のように暮れなずむ空を覆っていた。
たった一本だけ、ひっそりと忘れ去られたように水辺に佇む桜の姿に、凛とした潔さを感じずにはおれない。桜の傍には古い楓の樹がこれもまた静かに植わっている。
この桜を見る度に、お彩は母の言葉を思い出すのだった。

