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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第6章 其の参

男は手にした花びらを顔前にかざし、ふうっと息を吹きかける。その拍子に桜貝のような花びらは、ひらりと舞い上がり、水面に落ちていった。
男はしばらく暗い水面を見つめていたが、やがて静かな声音で言った。
「店に戻りなさい。お前さんの帰るべき場所は今、あそこしかないんじゃねえのか?」
お彩はハッとした。男は本当に何もかもを見抜いているのだ。お彩は確かに、「花がすみ」を辞めようかとさえ思いつめている。喜六郎はお彩を信じていると言ってくれるけれど、小巻の冷たい視線はお彩の心の芯まで凍らせる。
だが、今、ここで止めてしまえば、自ら店の売上金を盗んだと認めるようなものかもしれない。それに、お彩を信じると小巻の前で言い切った喜六郎の信頼をも裏切ることになりはすまいか。
男はしばらく暗い水面を見つめていたが、やがて静かな声音で言った。
「店に戻りなさい。お前さんの帰るべき場所は今、あそこしかないんじゃねえのか?」
お彩はハッとした。男は本当に何もかもを見抜いているのだ。お彩は確かに、「花がすみ」を辞めようかとさえ思いつめている。喜六郎はお彩を信じていると言ってくれるけれど、小巻の冷たい視線はお彩の心の芯まで凍らせる。
だが、今、ここで止めてしまえば、自ら店の売上金を盗んだと認めるようなものかもしれない。それに、お彩を信じると小巻の前で言い切った喜六郎の信頼をも裏切ることになりはすまいか。

