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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱

お彩にとって父と呼べる人間はこの世でただ一人、伊八しかいない。そんな吉之助とかいう得体も知れぬ男が自分の父親であるはずがないのだ。
暗澹たる想いに駆られているお彩の耳を、父の声が打った。
「それよりも、彦七さん。ここでそんな話をするのは止してくれねえか。今、あいつはこの甚平店から出て、近くの別の長屋に一人暮らししているし、滅多に家には帰ってこねえ。だからと言って、他の誰に聞かれねえとも限らないんだ。もしまかり間違って誰かからお彩の耳にこんな話が入ったら、それこそ終わりだ。俺は万が一つにもお彩に聞かれたくはねえ」
「そいつはそうだな。俺も久しぶりに江戸に出てきたからと、あんたのところに寄ってみる気になったんだがな。何しろお縞は息を引き取る間際までお彩ちゃんの名を呼び続けていたから―。
暗澹たる想いに駆られているお彩の耳を、父の声が打った。
「それよりも、彦七さん。ここでそんな話をするのは止してくれねえか。今、あいつはこの甚平店から出て、近くの別の長屋に一人暮らししているし、滅多に家には帰ってこねえ。だからと言って、他の誰に聞かれねえとも限らないんだ。もしまかり間違って誰かからお彩の耳にこんな話が入ったら、それこそ終わりだ。俺は万が一つにもお彩に聞かれたくはねえ」
「そいつはそうだな。俺も久しぶりに江戸に出てきたからと、あんたのところに寄ってみる気になったんだがな。何しろお縞は息を引き取る間際までお彩ちゃんの名を呼び続けていたから―。

