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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第8章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の弐

半ば戯れ言とも半ば本気ともつかぬ口調で言われ、お彩はその言葉に救われた想いだった。
結局、父への想いは恋情ではなく、年上の男性への憧れがたまたま父親に向いただけなのだと判ったけれど、お彩が父を、伊八を擬似恋愛の対象として慕ったのには、やはりそれなりの理由があったのかもしれない。お彩の中を流れる血が本能的に伊八は真の父ではないと告げていたのではないだろうか。伊八の中の血と己が体内をめぐる血はけして同じものでは有り得ないのだと、お彩は誰に教えられることもなく知っていたのかもしれない。
六日目の朝、お彩は布団から起き出そうとして、悪寒に身震いした。どうやら、風邪を引いてしまったらしい。寒い冬ならばともかく、初夏ともいえるこの時期に風邪とは、どうにも具合が悪い。
結局、父への想いは恋情ではなく、年上の男性への憧れがたまたま父親に向いただけなのだと判ったけれど、お彩が父を、伊八を擬似恋愛の対象として慕ったのには、やはりそれなりの理由があったのかもしれない。お彩の中を流れる血が本能的に伊八は真の父ではないと告げていたのではないだろうか。伊八の中の血と己が体内をめぐる血はけして同じものでは有り得ないのだと、お彩は誰に教えられることもなく知っていたのかもしれない。
六日目の朝、お彩は布団から起き出そうとして、悪寒に身震いした。どうやら、風邪を引いてしまったらしい。寒い冬ならばともかく、初夏ともいえるこの時期に風邪とは、どうにも具合が悪い。

