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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第8章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の弐

「こんな話は誰にもしたことがなかったんだがな。お彩ちゃんなら構わねえだろう」
伊勢次は一人言のように呟くと、小さな息をついた。伊勢次の父はやはり左官をしていたが、数年前にみまかり、伊勢次は現在は病身の母親と二人だけで長屋暮らしであると聞く。その母親が伊勢次の真の母ではないというのだろうか。
「俺の母親は後添えでね、俺を生んだ本当の母親は俺がまだ乳飲み子の時分に亡くなったそうだよ。俺がその事実を知らされたのは、七つくれえのときだったかな。同じ長屋の幼なじみが言うんだ。伊勢次のおっかあは本当のおっかあちゃねえって、うちのおとっつぁんが言ってたって」
伊勢次は小さく首を振った。
「正直、かなりの痛手だった。お袋は優しくて料理も上手で、俺の自慢だったからね。そんなお袋が実は全くの赤の他人だって知らされて、子どもなりに悩んだのを憶えているよ。
伊勢次は一人言のように呟くと、小さな息をついた。伊勢次の父はやはり左官をしていたが、数年前にみまかり、伊勢次は現在は病身の母親と二人だけで長屋暮らしであると聞く。その母親が伊勢次の真の母ではないというのだろうか。
「俺の母親は後添えでね、俺を生んだ本当の母親は俺がまだ乳飲み子の時分に亡くなったそうだよ。俺がその事実を知らされたのは、七つくれえのときだったかな。同じ長屋の幼なじみが言うんだ。伊勢次のおっかあは本当のおっかあちゃねえって、うちのおとっつぁんが言ってたって」
伊勢次は小さく首を振った。
「正直、かなりの痛手だった。お袋は優しくて料理も上手で、俺の自慢だったからね。そんなお袋が実は全くの赤の他人だって知らされて、子どもなりに悩んだのを憶えているよ。

