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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第12章 第五話 【夏霧】 其の壱

【其の壱】
「旦那さんはいなさいますか?」
突如として背後から声をかけられ、お彩は一瞬縮み上がった。ここは江戸は町外れの一膳飯屋「花がすみ」、お彩は「花がすみ」に通い奉公する仲居である。「花がすみ」はどこにでも見かけるような小さな飯屋だが、主人の喜六郎は若い時分に上方で板前を目指して本格的な修業をしていたというだけに、通人をも唸らせるほどの料理を作る。そのため、「花がすみ」にはお店者や職人、人足といったごく一般的な客とは別に、大店の旦那衆も通っている。
お彩がこの「花がすみ」に奉公するようになって、かれこれ二年近くになろうとしている。お彩は夜鳴き蕎麦屋をしていた母お絹が亡くなるまでは父伊八と共に裏店暮らしをしていた。
「旦那さんはいなさいますか?」
突如として背後から声をかけられ、お彩は一瞬縮み上がった。ここは江戸は町外れの一膳飯屋「花がすみ」、お彩は「花がすみ」に通い奉公する仲居である。「花がすみ」はどこにでも見かけるような小さな飯屋だが、主人の喜六郎は若い時分に上方で板前を目指して本格的な修業をしていたというだけに、通人をも唸らせるほどの料理を作る。そのため、「花がすみ」にはお店者や職人、人足といったごく一般的な客とは別に、大店の旦那衆も通っている。
お彩がこの「花がすみ」に奉公するようになって、かれこれ二年近くになろうとしている。お彩は夜鳴き蕎麦屋をしていた母お絹が亡くなるまでは父伊八と共に裏店暮らしをしていた。

