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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第12章 第五話 【夏霧】 其の壱

陽太はお彩の耳許で囁いたけれど、現実なに逢えるのはせいぜいが一年に数えるばかりといった有り様なのだ。時々、お彩は絶望感に苛まされそうになる。自分が幾ら陽太に惚れていても、それは所詮報われることはない恋ではないか。名前さえ知らぬ男を一途に恋い慕う我が身は愚かとしか言いようがないのかもしれなかった。
しかし、お彩はどうしても心から陽太の面影を消すことはできない。あの湖を思わせるような深い瞳の底で揺れる孤独の翳にお彩の心は絡め取られてしまっている。陽太が己れの素性を明かさないのにも何か事情があるとも思えたが、その理由を正面切って問うのもはばかられた。もし、その問いを口にすれば、陽太と自分の縁もそこでプツリと絶ちきられるような気がしてならないのだ。
しかし、お彩はどうしても心から陽太の面影を消すことはできない。あの湖を思わせるような深い瞳の底で揺れる孤独の翳にお彩の心は絡め取られてしまっている。陽太が己れの素性を明かさないのにも何か事情があるとも思えたが、その理由を正面切って問うのもはばかられた。もし、その問いを口にすれば、陽太と自分の縁もそこでプツリと絶ちきられるような気がしてならないのだ。

