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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第12章 第五話 【夏霧】 其の壱

何しろ、「花がすみ」の仲居はお彩一人なので、朝夕のかきいれ時にはそれこそ眼の回るような忙しさになるのだ。が、お彩はどんなに忙しくても笑顔を絶やさず、くるくるとよく働く。咲き匂う花のような可憐な美貌ともあって、「花がすみ」は看板娘のお彩を目当てに通う若い者も少なくはない。
昼時の最後の客を送り出してから、お彩はすぐに後片づけにかかった。喜六郎は次の書き入れ時―つまり夕飯時分に備えて板場で仕込みの真っ最中である。客の使った器を洗い、店内の机をすべて拭いてから、仕上げに床を掃き清める。背後から声がかかったのは丁度その最中であった。
お彩が振り返ると、渋柿色の暖簾を拝啓にひっそりと佇む女の姿が眼に映じた。年の頃は二十九ほどといったところか、水色襦子の着物には今、流行の麻の葉模様が描かれ、茶の帯を締めている。
昼時の最後の客を送り出してから、お彩はすぐに後片づけにかかった。喜六郎は次の書き入れ時―つまり夕飯時分に備えて板場で仕込みの真っ最中である。客の使った器を洗い、店内の机をすべて拭いてから、仕上げに床を掃き清める。背後から声がかかったのは丁度その最中であった。
お彩が振り返ると、渋柿色の暖簾を拝啓にひっそりと佇む女の姿が眼に映じた。年の頃は二十九ほどといったところか、水色襦子の着物には今、流行の麻の葉模様が描かれ、茶の帯を締めている。

