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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第12章 第五話 【夏霧】 其の壱

だが、それでも、お彩は言わずにはおれなかった。
「旦那さんのおっしゃりたいことはよおく判りました。でも、おきみさんは言いなすってます。承平ちゃんは旦那さんのお子だと」
「―店の金を勝手に持ち出した女の言い分をわしが信じると思うのかえ? 幾らわしが上に阿呆がつくほどのお人好しだとはいっても、流石にそれはあり得ねえよ」
喜六郎は鼻で嗤ってみせたが、お彩はその顔が心なしか引きつっているように思えた。
喜六郎の心は今、大海の小舟のように烈しく揺れている。お彩は痛々しい想いで喜六郎の横顔を見守った。
「あの時、店を勝手に辞めたのには理由があると、おきみさんも言ってましたよ? 旦那さん、余計なことを申し上げるの承知ですが、ここはもう一度だけ、おきみさんと話しあわれた方が良いのではありませんか」
「旦那さんのおっしゃりたいことはよおく判りました。でも、おきみさんは言いなすってます。承平ちゃんは旦那さんのお子だと」
「―店の金を勝手に持ち出した女の言い分をわしが信じると思うのかえ? 幾らわしが上に阿呆がつくほどのお人好しだとはいっても、流石にそれはあり得ねえよ」
喜六郎は鼻で嗤ってみせたが、お彩はその顔が心なしか引きつっているように思えた。
喜六郎の心は今、大海の小舟のように烈しく揺れている。お彩は痛々しい想いで喜六郎の横顔を見守った。
「あの時、店を勝手に辞めたのには理由があると、おきみさんも言ってましたよ? 旦那さん、余計なことを申し上げるの承知ですが、ここはもう一度だけ、おきみさんと話しあわれた方が良いのではありませんか」

