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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第14章 第六話 【春の雨】 其の壱

桜が咲く時季に特有の、夜気がしっとりと潤んでいるような夜である。
群青の布をひろげたような空にはきらめく無数の星が穿たれ、銀色に輝く新月が浮かんでいた。けして騒々しいわけではないのに、随明寺の方からのざわざわとした喧噪が伝わってくるようである。お彩は花の時季の、この心の浮き立つような独特の雰囲気が大好きだった。空気でさえほんのりと桜の色に染まっているような華やかさを感じるのだ。
だが、今はすぐ傍にいる伊勢次の存在がお彩にとっては気がかりであった。一体、どういう風に話を切り出せば良いのかと思案に暮れているのだ。
やがて、四つ辻に行き当たった。金物屋と筆屋が角に丁度大通りを挟んで向かい合うように建っている。ひと組の恋人たちは殆どもつれ合うようにしてその角を右に回って消えた。
群青の布をひろげたような空にはきらめく無数の星が穿たれ、銀色に輝く新月が浮かんでいた。けして騒々しいわけではないのに、随明寺の方からのざわざわとした喧噪が伝わってくるようである。お彩は花の時季の、この心の浮き立つような独特の雰囲気が大好きだった。空気でさえほんのりと桜の色に染まっているような華やかさを感じるのだ。
だが、今はすぐ傍にいる伊勢次の存在がお彩にとっては気がかりであった。一体、どういう風に話を切り出せば良いのかと思案に暮れているのだ。
やがて、四つ辻に行き当たった。金物屋と筆屋が角に丁度大通りを挟んで向かい合うように建っている。ひと組の恋人たちは殆どもつれ合うようにしてその角を右に回って消えた。

