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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第14章 第六話 【春の雨】 其の壱

永遠にも思える静けさが続いた後、伊勢次がポツリと呟いた。
「そうか」
そう言った伊勢次の顔を月明かりが照らしている。しかし、その表情は硬く、屈託のない朗らかな伊勢次とは別の男のようであった。表情の消えた静まり返った顔からは何の感情も読み取れない。
いつしか二人はお彩の住まう長屋の前まで歩いてきていた。
伊勢次はそのまま何も言わず、背を向けた。
いつもは話し好きで陽気な伊勢次が今日はまるで別人のようだ。その因が自分にあると知っているだけに、お彩はやり切れないほど辛かった。
―ごめんなさい、ごめんなさい。
幾度詫びても、それで済むものではない。また、フラレた男にふった女が謝るのは男の面目に拘わることだという伊勢次の言い分は道理だ。
「そうか」
そう言った伊勢次の顔を月明かりが照らしている。しかし、その表情は硬く、屈託のない朗らかな伊勢次とは別の男のようであった。表情の消えた静まり返った顔からは何の感情も読み取れない。
いつしか二人はお彩の住まう長屋の前まで歩いてきていた。
伊勢次はそのまま何も言わず、背を向けた。
いつもは話し好きで陽気な伊勢次が今日はまるで別人のようだ。その因が自分にあると知っているだけに、お彩はやり切れないほど辛かった。
―ごめんなさい、ごめんなさい。
幾度詫びても、それで済むものではない。また、フラレた男にふった女が謝るのは男の面目に拘わることだという伊勢次の言い分は道理だ。

