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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第16章 第七話 【雪花】 其の壱

お彩は、この甚平店で産声を上げ、十五まで暮らした。この長屋を出る一年前に、夜泣き蕎麦屋をしていた母お絹が流行風邪で急死している。
表の腰高障子を開けると、父の広い背中が見えた。物心つくかつかぬ頃から、しばしば眼にしてきた光景だ。こちらに背を向けて、一心に簪作りに打ち込む父の姿に、何か神々しいものでも見るような気になる。職人の気迫というのか、一つの道を極めようとする人間の横顔には崇高さに通ずるものがあり、子どもの心さえ打った。
父がそんな状態になると、母は声をかけるのすらはばかって、仕事に集中したいだけさせておいたものだ。
「おとっつぁん」
お彩が控えめに声をかけると、父がゆるゆると振り向いた。
表の腰高障子を開けると、父の広い背中が見えた。物心つくかつかぬ頃から、しばしば眼にしてきた光景だ。こちらに背を向けて、一心に簪作りに打ち込む父の姿に、何か神々しいものでも見るような気になる。職人の気迫というのか、一つの道を極めようとする人間の横顔には崇高さに通ずるものがあり、子どもの心さえ打った。
父がそんな状態になると、母は声をかけるのすらはばかって、仕事に集中したいだけさせておいたものだ。
「おとっつぁん」
お彩が控えめに声をかけると、父がゆるゆると振り向いた。

