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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第19章 第八話 【椿の宿】

今もあのときと同じ、お彩がいくら懸命に追いつこうとしても、市兵衛は瞬く間に先へ行ってしまって、そのうしろ姿さえ見えない。
お彩はもう一度小さな溜め息をつくと、力ない足どりで「花がすみ」までの道を辿った。いつものように逆の方向へと帰っていった市兵衛はもう京屋には着いたであろうか。
その時、二月の寒風がお彩の傍らを通り過ぎ、お彩はぶるっと身を震わせた。
心が寒い。ほんのわずかに身の内に残っていた温もりもとっくに冷めてしまった。
お彩は新たに湧き上がってくる涙をこらえながら、我が身を冷たい風から守るように両手でかき抱(いだ)いた。
随明寺から「花がすみ」までは歩いてもせいぜい知れている。店の手前に立った時、渋柿色の暖簾が真冬の風に音を立てて揺れているのが眼に入った。
お彩はもう一度小さな溜め息をつくと、力ない足どりで「花がすみ」までの道を辿った。いつものように逆の方向へと帰っていった市兵衛はもう京屋には着いたであろうか。
その時、二月の寒風がお彩の傍らを通り過ぎ、お彩はぶるっと身を震わせた。
心が寒い。ほんのわずかに身の内に残っていた温もりもとっくに冷めてしまった。
お彩は新たに湧き上がってくる涙をこらえながら、我が身を冷たい風から守るように両手でかき抱(いだ)いた。
随明寺から「花がすみ」までは歩いてもせいぜい知れている。店の手前に立った時、渋柿色の暖簾が真冬の風に音を立てて揺れているのが眼に入った。

