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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第19章 第八話 【椿の宿】

「いや、まだ客は来ていねえから、気にすることはないさ。それにしても、こんな生憎の天気の日に随分と長い墓参りだったんだなあ、気をつけねえと、風邪を引くぜ」
喜六郎は五十年輩の気の好い男である。一人娘を日本橋の仏具屋に嫁がせた現在は、お彩を養女にしてこの店の跡を託そうと目論んでいる。もっとも、その話は当人のお彩にはいまだ打ち明けてはおらず、お彩の父伊八にだけは内々で承諾を得ていた。
喜六郎の言葉は、もっともであった。好天ならともかく、この寒風吹きすさぶ真冬日に一刻余りも外出をするのは不自然だ。今日、お彩は随明寺に亡き母の墓参にゆくといって、いっときの暇を貰ったのだ。
喜六郎は五十年輩の気の好い男である。一人娘を日本橋の仏具屋に嫁がせた現在は、お彩を養女にしてこの店の跡を託そうと目論んでいる。もっとも、その話は当人のお彩にはいまだ打ち明けてはおらず、お彩の父伊八にだけは内々で承諾を得ていた。
喜六郎の言葉は、もっともであった。好天ならともかく、この寒風吹きすさぶ真冬日に一刻余りも外出をするのは不自然だ。今日、お彩は随明寺に亡き母の墓参にゆくといって、いっときの暇を貰ったのだ。

