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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第3章 第一話-其の参-

お彩は顔を上げた。
「私の惚れたのは、自分の父親なんです」
だが、男の整った面輪にはさざ波ほどの変化も起こらなかった。
お彩は固唾を呑んで男の貌を凝視した。
男が庭に面した縁側に降りた。男は縁側に佇み、無言で庭を眺めていた。色とりどりの光が縁側で躍っている。菊の色に染まった光の中で、男の端整な横顔までもがその光に染まって見えた。
「お前さんの気持ちを正直にお父さんに話してみたらどうかな」
唐突に男が振り向いた。
お彩の黒い瞳が大きく見開かれる。それは考えるだに、怖ろしいことであった。お彩の胸の内を告げれば、たとえ実の父親だとて呆れ果てることだろう。父に嫌われるどころか、軽蔑されることを想像しただけでも空恐ろしい。そんなことになれば、もう生きて父の前に出ることなぞできるはずもない。父に疎まれ蔑まれるよりは、まだしも報われぬ想いに身を焦がしながら生きている方がマシに思える。
「私の惚れたのは、自分の父親なんです」
だが、男の整った面輪にはさざ波ほどの変化も起こらなかった。
お彩は固唾を呑んで男の貌を凝視した。
男が庭に面した縁側に降りた。男は縁側に佇み、無言で庭を眺めていた。色とりどりの光が縁側で躍っている。菊の色に染まった光の中で、男の端整な横顔までもがその光に染まって見えた。
「お前さんの気持ちを正直にお父さんに話してみたらどうかな」
唐突に男が振り向いた。
お彩の黒い瞳が大きく見開かれる。それは考えるだに、怖ろしいことであった。お彩の胸の内を告げれば、たとえ実の父親だとて呆れ果てることだろう。父に嫌われるどころか、軽蔑されることを想像しただけでも空恐ろしい。そんなことになれば、もう生きて父の前に出ることなぞできるはずもない。父に疎まれ蔑まれるよりは、まだしも報われぬ想いに身を焦がしながら生きている方がマシに思える。

