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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第21章 第九話 【夫婦鳥~めおとどり~】 其の壱

伊八がこの甚平店からけして表店に引っ越そうとしなかったのは、ひとえに恋女房のお絹と暮らした想い出の場所だったからである。
元々お絹はこの長屋で生まれ育った。そこに伊八が引っ越してきて、夫婦として共に暮らすようになったのだ。お彩自身もこの長屋で産声を上げ、十四の年まで育った。
―馬鹿なおとっつぁん。
お彩の頬を大粒の涙がつたった。
他の男に手込めにされた女を女房に迎え、その男の子を宿したと判ってもなお、変わらぬ愛で包み込んだ。そして、生まれたお彩を我が子として腕に抱き、今日まで実の父親として愛し続けてきたのだ。女房が亡くなっても再婚もしようとせず、我が儘勝手な娘を心配ばかりしていた。
元々お絹はこの長屋で生まれ育った。そこに伊八が引っ越してきて、夫婦として共に暮らすようになったのだ。お彩自身もこの長屋で産声を上げ、十四の年まで育った。
―馬鹿なおとっつぁん。
お彩の頬を大粒の涙がつたった。
他の男に手込めにされた女を女房に迎え、その男の子を宿したと判ってもなお、変わらぬ愛で包み込んだ。そして、生まれたお彩を我が子として腕に抱き、今日まで実の父親として愛し続けてきたのだ。女房が亡くなっても再婚もしようとせず、我が儘勝手な娘を心配ばかりしていた。

