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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第25章 第十一話 【螢ヶ原】 其の壱

「―私、京屋を出てきたんです」
消え入りそうな声で短く応えたが、それ以上何も話そうとはしない。伊勢次は、たったそれだけのやりとりで大方を察した。
つい今し方、お彩が口にした言葉には重要な意味がある。〝出てきた〟というのが単なる買い物や物見遊山目的で出てきたのではないのは三つの幼児にだとて判ることだ。
伊勢次は心の内に何ともいえぬ苦々しい想いが湧き上がるのを感じた。それはお彩にというよりは、ある一人の男に向けられたものに相違なかった。
お彩が京屋のご新造になるもう随分前から、伊勢次はお彩のこの結婚には異を唱えていた。いや、結婚というよりは、お彩があの男と付き合うことに反対していたのだ。
消え入りそうな声で短く応えたが、それ以上何も話そうとはしない。伊勢次は、たったそれだけのやりとりで大方を察した。
つい今し方、お彩が口にした言葉には重要な意味がある。〝出てきた〟というのが単なる買い物や物見遊山目的で出てきたのではないのは三つの幼児にだとて判ることだ。
伊勢次は心の内に何ともいえぬ苦々しい想いが湧き上がるのを感じた。それはお彩にというよりは、ある一人の男に向けられたものに相違なかった。
お彩が京屋のご新造になるもう随分前から、伊勢次はお彩のこの結婚には異を唱えていた。いや、結婚というよりは、お彩があの男と付き合うことに反対していたのだ。

