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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第25章 第十一話 【螢ヶ原】 其の壱

その強硬な態度からも、市兵衛がお彩に心底惚れていることは誰の眼にも明らかであった。だが、好いた惚れただけで上手くゆくなら、この世に別れる男女はひと組もいないだろう。
伊勢次は、京屋でのお彩の孤独な日々を見たわけでも知っているわけでもないけれど、裏店育ちの娘が京屋ほどの大店に嫁いで、いかほどの気苦労を強いられたかを想像するのは難くない。
古くから京屋に奉公しているあまたの奉公人たちのお彩を見るまなざしが好意的であったとも思えない。彼らの眼に、突如として出現した若い内儀は〝成り上がり者〟、主人を色香で惑わし玉の輿に乗った小娘としか映らなかったろう。
伊勢次は、京屋でのお彩の孤独な日々を見たわけでも知っているわけでもないけれど、裏店育ちの娘が京屋ほどの大店に嫁いで、いかほどの気苦労を強いられたかを想像するのは難くない。
古くから京屋に奉公しているあまたの奉公人たちのお彩を見るまなざしが好意的であったとも思えない。彼らの眼に、突如として出現した若い内儀は〝成り上がり者〟、主人を色香で惑わし玉の輿に乗った小娘としか映らなかったろう。

