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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第26章 第十一話 【螢ヶ原】 其の弐

お彩が黙り込んでいると、伊勢次が静かな声で言った。もう先刻までの怒りは消え、いつもの彼に戻っている。そのことに少しホッとして、お彩は伊勢次を見た。眼前の伊勢次は笑っていた。いつもどおりの春の陽だまりのような笑顔だ。
「済まねえ。ついカッとなっちまって、強く言い過ぎちまった。お彩ちゃん、何もかも忘れろ―とは言っても、すぐにすぐ忘れることはできねえと判ってる。けど、一日も早く京屋でのことは忘れて、元の健康な自分を取り戻すことがお彩ちゃんにとっても腹の子にとっても今は大切なんじゃねえかな。なに、心配するこたァねえって。いざとなったら、俺がお彩ちゃんと腹の赤ン坊の二人くらい、ちゃんと養ってやるからさ。そりゃア、大店のご新造様のような暮らしはできっこねえけど、俺たち三人、食うのに困らねえほどには稼いでくるぜ」
「済まねえ。ついカッとなっちまって、強く言い過ぎちまった。お彩ちゃん、何もかも忘れろ―とは言っても、すぐにすぐ忘れることはできねえと判ってる。けど、一日も早く京屋でのことは忘れて、元の健康な自分を取り戻すことがお彩ちゃんにとっても腹の子にとっても今は大切なんじゃねえかな。なに、心配するこたァねえって。いざとなったら、俺がお彩ちゃんと腹の赤ン坊の二人くらい、ちゃんと養ってやるからさ。そりゃア、大店のご新造様のような暮らしはできっこねえけど、俺たち三人、食うのに困らねえほどには稼いでくるぜ」

