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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第4章 第二話【花影】-其の壱-

男が「花がすみ」に来ることは、その日以来、二度となかったけれど、お彩の脳裡から別れ際の言葉が消えたことはなかった。雨の日、男が囁いた「似ている」と最後に逢った日の「私はお前さんのおっかさんを知っているよ」という二つの台詞がお彩の中でせめぎ合っている。もう殆ど上がり近い双六の一歩手前にいて、そこから身動きできないようなもどかしさにも似た感情がお彩の中で渦巻いている。
あれらの二つの言葉は一体、何を言おうとしているのだろうか? だが、男に逢う機会はなく、日は空しく過ぎてゆくばかりだ。お彩の疑問に応えてくれる者はいない。また、お彩は改めて気付いた。父伊八への想いがいつしか薄れていたのである。というよりは、あの名前さえ知らぬ不思議な男のことを考える時間があまりにも多くなり、父のことを考える余裕(ゆとり)が心になくなってしまったと言った方が適切だろう。
あれらの二つの言葉は一体、何を言おうとしているのだろうか? だが、男に逢う機会はなく、日は空しく過ぎてゆくばかりだ。お彩の疑問に応えてくれる者はいない。また、お彩は改めて気付いた。父伊八への想いがいつしか薄れていたのである。というよりは、あの名前さえ知らぬ不思議な男のことを考える時間があまりにも多くなり、父のことを考える余裕(ゆとり)が心になくなってしまったと言った方が適切だろう。

