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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第1章 第一話―其の壱―

お絹と伊八が所帯を持ったのは、もう十六年も前のことになる。二人が祝言を挙げた時、既に母お絹の腹にはお彩が宿っていたのだ。
お彩が十三の冬、お絹は質の悪い風邪で亡くなった。お絹も母を四つで喪い、また父参次をも十四の歳に流行病(はやりやまい)で喪ったが、皮肉にも参次とお絹の生命を奪ったのは同じ病であった。その年、江戸には質の悪い風邪が蔓延し、体力のない子どもや年寄りが次々に生命を奪われていった。お彩もまた病にかかったのだが、お絹は商売の夜泣き蕎麦屋の仕事を休んで、それこそ不眠不休で看病してくれた。 そして、お絹はお彩と入れ替わるようにして病に倒れ、そのまま数日で帰らぬ人となり果てた。まだ三十を過ぎたばかりの若さであった。母は祖父がやっていた夜泣き蕎麦屋の仕事を引き継いで、まだ父と所帯を持つ時分から屋台を引いていた。父はその店に通う常連の一人であったという。
お彩が十三の冬、お絹は質の悪い風邪で亡くなった。お絹も母を四つで喪い、また父参次をも十四の歳に流行病(はやりやまい)で喪ったが、皮肉にも参次とお絹の生命を奪ったのは同じ病であった。その年、江戸には質の悪い風邪が蔓延し、体力のない子どもや年寄りが次々に生命を奪われていった。お彩もまた病にかかったのだが、お絹は商売の夜泣き蕎麦屋の仕事を休んで、それこそ不眠不休で看病してくれた。 そして、お絹はお彩と入れ替わるようにして病に倒れ、そのまま数日で帰らぬ人となり果てた。まだ三十を過ぎたばかりの若さであった。母は祖父がやっていた夜泣き蕎麦屋の仕事を引き継いで、まだ父と所帯を持つ時分から屋台を引いていた。父はその店に通う常連の一人であったという。

