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ドアの向こう〜君に逢いたくて〜
第8章 幸せからの落とし穴
いつの間にか、カイさんに抱き締められながら眠っていた。
目が覚めてカイさんを見ると、気持ち良さそうに眠っている。
カイさんを起こさないように、ベッドを出てキッチンで水を飲んでいると、カイさんの大きな声が聞こえた。
「うわっ!俺、何で裸?」
「どうしました?」
部屋を覗いて声を掛けると
「ナギちゃん…?俺…?何で…?」
カイさんを見ると明らかに動揺している。
布団で体を隠しながら、部屋と私を見渡す。
しばらく何かを考えるように瞳を閉じると、カイさんは静かに口を開いた。
「ナギちゃん、昨夜の事…ごめん、何も覚えてない。」
「えっ!?」
驚きとショックで、それ以上何も言えなくなった。
「一緒に店出たとこまでしか、思い出せない…。ほんまにごめん。」
カイさんの言葉には、昨夜みたいな甘い雰囲気は全くなく、むしろ突き放すような冷たい言葉だった。
「髪、乾かしてくれたんですよ…。」
「そうなんや…。」
「何度もキスしてくれたんですよ…。」
「…ごめん。」
昨夜あれだけ私を見つめてくれた瞳も、今日は私を見ようともしてくれない。
一夜だけの関係でもいいと思った。
でもそれは、カイさんの記憶の中に自分との時間が、残ってくれるだけでいいと思ったからで。
今のこの状況は、そんな私の些細な望みさえも、叶えてくれない。
昨夜とはまるで別人のカイさんに、私は一緒にいる事さえも、辛くなっていた。