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さくらホテル2012号室
第17章 傷心旅行

わたしはショーツだけの姿になって、大きなベッドに入った。
リネンの寝具はひんやりと冷たいけれど、ここに、こうしていることが、いまの自分に必要なことだと思えた。
「先生」
わたしは唇を小さく動かして、そう、言葉にする。
帰ってきました。先生。
頭から布団をかぶり、ベッドの中で膝を抱える。
道子。
先生の声が聞こえる。
どうして?
仕方がなかったんだ。
言えなかった。
でも、どうして…
わたし、ひとりになってしまいました。
そうだね。
すまないね。
先生…。
ずっと心のなかに澱(おり)のように溜まっていた想いが、溶け出してゆく。
泣いてもいいのだ、と、わかった。
目頭が猛烈に熱くなり、嗚咽が喉からこぼれる。
そして大粒の涙が、ボロボロとこぼれ始める。
何もためらわなくていい。
何もとり繕わなくていい。
ただ、心のままに。
しゃくり上げながら、わたしは泣いた。
身体を丸めて、ベッドの中で。
歯ぎしりをしながら、泣いた。
シーツにあたたかな涙の染みが生まれるまで。
思い切り、泣いた。
淋しくて。
悔しくて。
悲しくて。
恐ろしくて。
幼子のように、わたしは泣いた。
さくらホテル2012号室に、わたしの泣き声だけが、あった。

