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さくらホテル2012号室
第18章 思いもよらず

「それと、お客さん、」
大将が、言う。
「旦那さんから、こいつを預かっておりやす」
桐の小箱。
手のひらの中に収まってしまうほどの。ちょうど指輪を入れる化粧箱のようにも見える。
「これは?」
「さぁ。しばらく前に旦那さんがおしとりでいらして、こいつを預かりやしてね。奥様が次にしとりでいらした時に渡してくれと」
手のひらの中のその桐の小箱を、わたしは何度も見る。
蓋を外そうとしたわたしに、大将は
「お部屋で開けろ、と旦那様から伝言をいいつかっておりやす。
それとーー」
そう言って、大将はカウンター下の冷蔵庫からもうひとつ、緑色のガラスの瓶を取り出した。ラベルにはさる有名な日本酒の大吟醸の名がついている。二合瓶。
「これはウチの店から」
そして素焼きの素朴な徳利を添えてくれた。
どうして?、という表情のわたしに、大将は答えた。
「お悔やみです」
思いもよらない台詞に、返す言葉のないわたし。

