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さくらホテル2012号室
第18章 思いもよらず


「そろそろ〆にされますか?」
大将が聞いてくれた。
「ええ。お茶をください」
へい、と頷いて、若手の板前さんに指示を出してから、大将は続けた。
「あとしとつだけ、握らしてもらってよろしいですか?」
大将のほうからそんな風に言ってくれたのは初めてのことだ。
「おすすめがもうしとつ、あるんで」
わたしは頷いて、大将の最後の握りを待った。


ネタケースではなく、冷蔵庫から木綿のサラシに巻かれた赤身の柵を、彼は恭(うやうや)しくまな板に置いた。
「今朝、沖の島の定置でとれたマグロです」
定置、とはおそらく定置網のことだろう。
濃いピンク色の身肉に、白い脂の筋がいくつも入っている。
「地物なんですね?」
「左様で」


この人は地物しか出さないから、この寿司屋にはマグロがないんだよ。
笑って言ったあの人の横顔がまぶたに浮かぶ。


ほらごらんなさい。
勝手に消えたりするから。
こんなとっておきを、あなたは口にすることが出来ないのよ。


わたしの頬にえくぼが浮かんでいるだろう。
大将はツケ台に、その見事なトロを出してくれた。


口に入れると、体温で瞬く間に溶けてゆく脂。
シャリの爽やか。噛みしめると刺身と米が程よく混ざり合い、甘みと旨みが強く強く立ち上がってくる。口腔を満たし、鼻に抜けるマグロの濃い香り。


「あぁ… とても。。美味しい」
また、自然に言葉がこぼれ落ちる。
「この海の恵みです」大将は背中のガラス越しに見える湾を横目で見ながら、そう呟いた。海には、残照がきらめいていた。

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