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さくらホテル2012号室
第3章 笑い皺に惹かれる理由(わけ)


タクシーがさくらホテルに着くと、先生はいつも、こざっぱりとした格好でロビーでわたしを迎えてくれた。夏なら麻のジャケットとジーンズ。冬ならカウチンセーターの印象が強い。
「よく来たね」、と小さく笑ってくれた。人前で肩を抱いたり手をつないだりといったスキンシップはほとんどしなかった。


その代わり、その笑顔はとても印象的だった。
笑うと目尻から頬にかけて、深い笑い皺が刻まれる。その笑顔は、どことなくネイティヴアメリカンの酋長を思わせた。
後年、先生から聞いたのは、それはアイヌの血のおかげなのだという。北海道出身の先生のルーツに初めて触れた気がした。


白いものの混じった短くツンツンと立った髪。
節くれだった長い指先。
先生と同い年の男性たちが加齢によってどんどん失ってゆく魅力は、先生には全くといって良いほど関わりがない。
年老いてなお、先生は上品で、そしてセクシーだ。

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