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さくらホテル2012号室
第5章 それが本音ですね?
「村沢さんは、とても有能なんですね」と、先生は言ってくれた。「いつもテキパキと滞りなく仕事を進めていただいて、おかげでこちらのセミナーはいつも気持ちよくやることができます」
「とんでもありません!」
わたしは顔を真っ赤にして、片手を強く振りながら答えた。「こんなこと、あたりまえです。誰にでもできることです」
わたしは謙遜してそう答えたけれど、ほんとうは舞い上がるほど嬉しい気持ちだった。
通常の司書業務に加え、このセミナー活動はかなりの手間を必要とした。区長が変わって区の文教活動への理解が深まったことは喜ばしい限りだが、対外的な費用は計上されても、図書館の人員が不足するというところまで理解が及ばなかったようで、我々司書は膨大な雑役に追われることとなった。
しかし、外部の方に失礼があってはいけないと、わたしは強く思っていた。区立図書館の正規司書職員としてパートタイムの人たちを管理することはあったが、外部の方の力を借りて業務を行うのは初めてだった。だからわたしは必要以上に慎重に業務を進め、外部の方に不手際がないように細心の注意を払っていた。
セミナー担当者として実際のセミナーに出席するものの、聴講生に交じって音読をすることなどはせず、常に教室の後ろで先生の講義を静かに拝聴していた。
そんなわたしの姿を見て、先生は授業への参加を促してくれたのだ。