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さくらホテル2012号室
第7章 最初のメール

雨の降る日だった。
「桜の季節ですね」
図書館の通り向かいにある喫茶店の窓ガラスにしのつく雨滴を見ながら、先生は言った。
「桜?」
と、わたしは問い返した。「桜にはまだ早くありませんか?」
三月の半ばも過ぎていない季節。
冬の底は打ったというものの、まだ寒い気温の日が続いていた。
「早咲きの桜。河津桜というんです。ご存知ありませんか?」
聞いたことがある。伊豆の南端の方で早春に咲く桜並木があるという。
「毎年、花見をするんです。この時期に」
「ずいぶん気の早いお花見ですね」
「仕事を休んで、少し東京を離れましてね。いつもの宿に一泊して、窓から見える古い大きな河津桜の樹を見ながら、昼酒です」
「とても優雅なお花見ですね!」

