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さくらホテル2012号室
第8章 夢想する指先

それは現実にはならないこと。
現実にしてはいけないこと。
だからこそ、それは甘やかで口当たりよく、わたしひとりの胸の内にしまっておける宝物だった。
そうだったはずなのに。
わたしはいとも容易くその一線を超えてしまった。まるでわたしの妄想を知っているかのように、先生はわたしの心の中に入り込み、わたしを誘(いざな)った。それもごく自然に。秋になると鮭が生まれた川に戻るように。春になればせせらぎの淵でふきのとうが芽吹くように。
そう。
朝の光のなかで、わたしの指はクリトリスをやさしく刺激する。逝くことが目的でなく。わずかの間、現実を離れるために繰り返された秘密の遊戯。
さくらホテルの2012号室のドアを開けた時、それが現実になった。

