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第12章 ほどける

でも、折に触れて先生が囁いてくれる鮨の味わい方に感化され、わたしもここでいただく品のある握りのファンになっていった。


「今日はタコから」と、大将が言って出されるタコの握り。少し小さめのシャリに、さっと煮くぐらせたタコのスライスがのっている。
「佐島？」
「左様で」
先生は短く聞き、それと同じくらい短い返事がくる。佐島とは、おそらくこのタコの産地だろう。


先生はわたしに言う。
「口に入れるとサッと噛み切れる。この加減が技なんですよ。そして、香り。わかりますね？」
確かに。わたしは深く頷く。
安い寿司では味わったことのないような、爽やかな歯ごたえ。ほどけてゆくシャリと口の中でみごとに絡む。
そして香り。
タコの刺身の味わいは知っているけれど、それにこんなに深い香りがあったなんて。