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さくらホテル2012号室
第14章 桜貝の散歩


ぷッ


ちいさなちいさな音を立てて、その貝殻は真ん中から割れてしまった。
手のひらのなかで、割れたふたつの花びらの破片になってしまった。


あぁ…。
わたしは嘆息する。
先生はそれを覗き込んで、言った。
「それは過去が壊れた音です」


その意味を図りかねて、わたしは先生の方を向く。
先生は薄く微笑んで、ただ、海の向こうを見ていた。その目線は、時の向こうを見ていたことに、その時のわたしは少しも気付かなかった。

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