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さくらホテル2012号室
第14章 桜貝の散歩

先生はわたしの目の前でその手のひらを開いてくれた。
ピンク色の小さな貝殻。小指の爪ほどの、アサリのような形をした。けれど色がぜんぜん違う。ごく淡いピンク。そして貝殻自体がとても薄い。空に透かしたら向こうが透けて見えるような。
「海桜ですね」
先生が言う。
確かにそうだ。
まるで桜の花びらのようにはかなく淡い、小さな美しいもの。
わたしは手のひらにそれを取って、ためつすがめつそれを見る。
しかし。
指先で丁寧に扱っていたつもりだったのに。

