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あいの向こう側
第10章 眺める街
ぜぇぜぇ息を切らし、
その部屋のインターホンを鳴らした。
間があった。
2度鳴らした。
―――同じく無反応。
『………やっぱ、
引っ越したあとかぁ………』
俺は背を向けて息を吐きながら歩き出す。
背後でカチャリと音がした。
『………貴士?』
その聞き慣れた声に、
俺は振り返った。
紗英が目を丸くして突っ立っている。
俺は紗英に向かって歩いた。
『どーしたの………
あれっ?仕事は?
………わたしたち、別れたんじゃなかったっけ』
俺は紗英の細い肩に手を置いた。
『………急にごめん。
会いたかった。
――寂しかった、顔を見たくて我慢出来なかった』
そう溢すと、
ポカンとしていた紗英の顔がぐしゃりと潰れ、目にみるみる涙が溢れた。
『引っ越しって嘘なの…』肩を震わせる。
『うん』
『踏ん切りがつかなくて、迷ってばっかで結局住んでる』
『うん、
ごめん……紗英』
紗英が顔を上げた。
『………ちゃんと好きだから。遅いかもしれんけど』
そう伝えると紗英が俺に抱き着いた。
ギュウッと小さな体を抱き締め返す。
マンションの外廊下、
紗英の頭越しに街並みが呑気な様相をして佇んでいるのが見えた。
穏やかな街を見ながら、
(―――……また、笑わせてやりてぇな)
俺はそう思った。
どこからか蝉の鳴き声が聞こえてきた…………………………
後日紗英とアパートで過ごしている時、「蝉の声がファンファーレに聞こえた」と言うと紗英が噴き出した。
〔終〕
その部屋のインターホンを鳴らした。
間があった。
2度鳴らした。
―――同じく無反応。
『………やっぱ、
引っ越したあとかぁ………』
俺は背を向けて息を吐きながら歩き出す。
背後でカチャリと音がした。
『………貴士?』
その聞き慣れた声に、
俺は振り返った。
紗英が目を丸くして突っ立っている。
俺は紗英に向かって歩いた。
『どーしたの………
あれっ?仕事は?
………わたしたち、別れたんじゃなかったっけ』
俺は紗英の細い肩に手を置いた。
『………急にごめん。
会いたかった。
――寂しかった、顔を見たくて我慢出来なかった』
そう溢すと、
ポカンとしていた紗英の顔がぐしゃりと潰れ、目にみるみる涙が溢れた。
『引っ越しって嘘なの…』肩を震わせる。
『うん』
『踏ん切りがつかなくて、迷ってばっかで結局住んでる』
『うん、
ごめん……紗英』
紗英が顔を上げた。
『………ちゃんと好きだから。遅いかもしれんけど』
そう伝えると紗英が俺に抱き着いた。
ギュウッと小さな体を抱き締め返す。
マンションの外廊下、
紗英の頭越しに街並みが呑気な様相をして佇んでいるのが見えた。
穏やかな街を見ながら、
(―――……また、笑わせてやりてぇな)
俺はそう思った。
どこからか蝉の鳴き声が聞こえてきた…………………………
後日紗英とアパートで過ごしている時、「蝉の声がファンファーレに聞こえた」と言うと紗英が噴き出した。
〔終〕