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あいの向こう側
第1章 凪に沈む
町人は皆が皆、
海に諭されたかのようにのんびりと温かい。


梅乃は白髪混じりの短い髪をかきあげた。


若い夫婦は、
土日には手を繋いで海辺を散歩する。
梅乃が今立てっている歩道が散歩道として使われていた。



狭い町も、
人間を集客しなければ破綻してしまう。
夫が他界したのと同時期から、町は近代化を急速に進めた。


散歩道を舗装し、
アーティストがデザインした遊具を設置した公園が出来た。
海辺には美容院・
核家族用のアパート・
24時間営業のスーパーが建った。




たくさんの人間が町に増えた。


梅乃は、
静かで凪いだような漁師町を愛していた。


人が増えなければ町は活性化しないのは事実で、
実際人が増えてから便利になった。子供が増え、学校も規模が拡大した。

が……………
夫が沈んだ海を汚されたように感じる。
海岸に転がる弁当の空き殻や、
ペットボトルゴミを見てため息が出る。
手伝いを終えた夕方、疲れているからかやけに目に付いてしまう。

『あ。
こんにちわぁー』


『…ああ、
こんにちは』
梅乃は反射的に笑みを作った。

カツカツとヒールの踵を鳴らし、
我が物顔で闊歩してきたのは若い夫婦の嫁のほう。


ふわふわした金髪を揺らし、
こってりと塗りたくった化粧。
舌足らずなしゃべり方で挨拶する。


夫のほうはネットビジネスとやらで生計を立てているそうだ。
平日はアパートから出てこない。







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